Column

初めての万年筆

もう十年くらい前からだろうか、私は何だか妙に万年筆というものに思い入れがあって、
でも万年筆というものを一本も持っていなかった。
家にもなかった。
それで私は万年筆というものを触ったことがなかった。

それでも興味を持ったのは何でなのかはよく分からないけれど、
私はそれまで興味のなかったものに唐突に興味を持ち始めることがあって、(まぁみんなそうだと思うけれど)
それは、それまで自分の中に内包されていたのに、まだ発芽していなかった可能性が、
水や光のような外側の出来事に何らかの刺激を受けて、
唐突に自分の中で育ち始めるからだと思う。
私の場合文具類がとても好きなので、それが影響したのかもしれない。

それで、万年筆が欲しいなぁという想いをずっと自分の中に育てていたのだけど、
いくつかの理由があって、私はまだ万年筆を手にしたことがなかった。
一つは、私がなぜか万年筆というものに、あまりに思い入れがあり過ぎるため、
自分の気に入らない適当な万年筆を買う気がしなかったからだ。
最初に買う一本は一生大事にする特別な一本がいい!と決めていたのだ。
まるで万年筆がまだ高価だった頃の昔の人のようだ。
今のご時世万年筆は、大抵の場合数千円のものが多く、中には数百円で売っているものもあるらしい。

最初の頃、ちょっと気に留めていたのはLAMYで、
それは凄くデザインが気に入ったというよりは、値段が手頃で、デザインもまぁまぁよくて、
私はインクの臭いに敏感なため、使えるかどうか分からないというのもあったから、
最初に手を出すには手頃だろうかと思ったのだ。
でもデザインが気に入りきらなかったということと、
その当時治療を受けていた先生に万年筆は合わないと言われて、(今思うと、その情報は間違っていたと思う)
何だかもやもやした気持ちのまま、万年筆が欲しいという想いを諦めた。


それでもそれから数年経って、どういう理由でだったかこれまた忘れたのだけど、
(ネットで万年筆で書いた素敵な文字が出てきたのかもしれない)
あぁ、万年筆が欲しいなと今年思い始めて、
ちょうど父から誕生日にとお金をもらったのもあり、
そうだ、誕生日プレゼントとして自分への特別な万年筆を買おう、
そんな風に思ったのだ。

それでネットを勢いよく検索し始め、膨大な数の万年筆を探した。
私は好みに結構こだわりがあり、それだけでかなりの万年筆が絞られるということが分かった。
セルロイドを削った形がキャップの辺りに見えているのはいや、安っぽい感じがするものはいや、
そんな感じで探しに探して、有名万年筆メーカーのものもほとんど気に入らない中、
1つだけ、あれ、ここのデザインのは凄く素敵…とヒットしたものがあった。
PARKERの万年筆だった。
とりわけ心を奪われたのは、赤い、ソネットという名前の綺麗な万年筆で、
金色の飾りがついていて本当に綺麗だった。(それは矢羽根の形をしている)
現行品は、艶消しの金属ベースの赤い万年筆なのだけど、
以前のものは、金属ではなく赤い艶のあるラッカー塗装で、私はそちらの方がより気に入ってしまった。
ネット販売は実際の品物を見られないのが難点で、
実際にはどちらの方が気に入るだろう…と、写真だけではよく分からなかったので、
ちょっと賭けになってしまうところもあったのだけど、
やっぱりこちらの方がいい気がすると以前のものを買って、いざ届いてみると、
ネットで見た以上に綺麗で、その美しさと存在感にとてもびっくりした。(私はPARKERの回し者ではありません(笑))
細かな造りが安っぽくなく本当に綺麗で、素晴らしいなと思ってしまった。

それでPARKERの万年筆を心底気に入って、別のインクを入れたかったというのもあって、
もう少しリーズナブルな2本目も購入。

こちらはもっと地味な色のもので狙っていたものがあったのだけど、
値上がりしてしまったのと、他にも気になっていたものがとても安くなったというのもあって、
そちらの方を先に購入してしまった。
この気に入りようだと、私はたぶん他の万年筆もほとんどPARKERのもので揃えるだろう…
佇まいや造りの美しさが本当に綺麗。


そしてもう一つ重要だった部分、万年筆に入れるインクも購入した。
カートリッジではなくインクを入れることに万年筆の美しさを感じていたので、
どうしても万年筆のインクが欲しかったのだ。
私はインクも持っていたのだけど、そちらはドローイングインクで、
万年筆のことについて色々調べていると、ドローイングインクはシェラックが入っていて固まってしまうため、
万年筆に入れるのには向かないと分かったので、
新たに万年筆用にインクを購入する必要が出てきてしまった。
ドローイングインクはつい最近買ったもので、発色はとても綺麗だったのだけど、
インクの臭いがとても臭くて、わざわざつけペンを出して積極的に使う気になれなかったのだ。
それで、それを万年筆に入れられたらもっと手軽に使えるんじゃないかと思っていたので、
余りに余った(?)そのインクを万年筆に使うことはできなくて、ちょっと残念だった。

そのため万年筆であってもインクはやっぱり臭いんじゃないだろうかととても心配だったのだけど、
驚いたことに、なぜか万年筆用に買ったインクは全く臭くなくて、
私でも平気で使えるということが分かった。
これは本当にありがたい誤算だった。
私は十代の頃はボールペンをよく使っていたのだけど、
ある時もの凄くボールペンのインクの臭いに反応するようになり始めてしまって、
使うとひどく気持ちが悪くなるので、ボールペンを一切使えなくなってしまったのだ。
それでそれ以来、私は絵や文章を描き留める時はずっとシャープペンシルで、
擦れると薄くなってしまうし、保存性が低いのが悩みだった。
でも万年筆が使えるということが分かって、何かを書き留めておくというのがとても容易にできるようになり、
私の筆記用具周りの利便性は大幅に向上した。

インクにもやはりこだわりがあって、最初に買うインクは素敵なインクがいい!と思っていた。
私がインクを買ったのは遠い昔、子どもの頃で、そのインク瓶の形やインクの色の素敵さというものに、
私は子どもの頃から惹かれていたのだなぁということを思い出していて、
せっかく買うなら素敵な瓶のものを、と思っていた。
これ!と思えるインクはすぐに見つかり、ほんの少し奮発して購入した。
色は大いに迷ったのだけど、完全な黒ではなく、ストーングレーという少し温かみのある色にした。
インクはそれだけで色が強いので、少し色味が薄いものの方が、
今までのシャープペンシルで書き留めていた感覚に近いかなという思いもあった。
インクの色選びは正解で、ほんの少し明るめの黒が、いい感じにメモとして調和している感じ。
思ったよりは薄くなく、これでもちょっと濃いくらいだった。

そしてもう一つよかったのが、自分で書いた字がよいなと思えるようになったことだった。
私は字をあまり綺麗に書けないし、書いているとすぐに疲れてしまうので、
字を書くのがあまり好きではなかったのだけど、(ペンの持ち方がひどいせいだろうか)
なぜなのか万年筆で書いた字は、私でも味わいのある字になり、
書いた字がそのままグラフィックとして成立してしまう雰囲気があった。
筆圧や書く時の感触が独特で、そこにインクの滲みが重なってくるので、
ただ普通に書くだけで、雰囲気よく書き上がってしまうのだ。


そんなこんなで万年筆というものが、すっかりお気に入りになってしまった。
とくにボールペンを使えない私は、何で今まで使ってこなかったのだろうという感じだった。
もしもっと早く万年筆を買っていたら、
もっとたくさんのものを綺麗な形で描き留めることができたのだろうな。
そんな風にも少し思うのだけど、これからもっともっと万年筆とインクと仲良くなっていけたらと思う。
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